眞白井エイドです。
普段はYoutubeでMtGパイオニア環境に関する配信活動をしています。
前回、市川プロの海外RCQ・GOQ Valenciaにて、「アゾコンが33人いたのにDay2進出が1名だけだった」というツイートが気になり、GOQ Valenciaの大会結果をまとめた記事を出しました。
一旦の結果として、
・ボロス召集はアゾコンに勝ったが、それ以上にラクドス・ミッドレンジと緑単信心に負けたので勝ちきれなかった
・アブザン・パルヘリオンはアゾコンとボロス召集に挟まれて辛かったぽい
ということは分かったのですが……
・緑単信心が頑張れたのは何かあるのでは?
・イゼット独創力のDay2進出率が良かった理由は?
・ロータス・コンボのDay2進出率が良かった理由は?
と、色々気になったところが追加で出てきまして、特に『ラクドスがここまで勝った理由』というのはどうしても突き止めておきたく、追加の記事を書きました。
前回の記事を読んでおくと理解が進みやすいと思いますので、ご一読いただけると嬉しいです!
アゾコンの特徴を洗ってみる
まずは今回の話題の中心、【アゾリウス・コントロール】の特徴を洗ってみることにしました。
現在のアゾリウス・コントロールには複数の型があります。
大きな分岐点としては、以下の点。
- 相棒の採用有無
- 《空を放浪するもの、ヨーリオン/Yorion, Sky Nomad》
- 《孤児護り、カヒーラ/Kaheera, the Orphanguard》
- 《軍備放棄/Lay Down Arms》の採用の有無
- 《かき消し/Make Disappear》《方程式の改変/Change the Equation》の有無及び採用枚数
ということで、まずはこれらについては知りたいところ。
また、《孤児護り、カヒーラ/Kaheera, the Orphanguard》採用型も、サイドの《オレスコスの王、ブリマーズ/Brimaz, King of Oreskos》や《威厳あるカラカル/Regal Caracal》の枚数が異なるため、それも調べてみます。
そして、最近の大きな変化と言えば【ボロス召集】の登場。
前回の記事でも、「【ボロス召集】へのガードが上がり過ぎて【ラクドス・ミッドレンジ】に大きく負けた」という可能性が出ていたため、【ボロス召集】の対策として真っ先に挙がるであろう、《一時的封鎖/Temporary Lockdown》の枚数も調べます。
また、【アゾリウス・コントロール】を長く使われている袁術陛下さんにせっかくなので知りたい所があれば~とお尋ねしたところ、「2Tアンタップインの土地枚数を知りたい」とのことでしたので、それも調べることにしました。
Meleeを見たところ、他アーキタイプの混入があったため、GOQ Valencia(以下、GOQ)の【アゾリウス・コントロール】の人数は31名。
ここから「全体平均」「勝ち越した6名/負け越した25名」、「上位25%の8名/下位25%の8名」で、採用枚数の平均値を中心に比較をしていきます。
本当なら有意差検定とかやるべきなのかもですが、ちょっとパワーが足りなかったので平均値だけになっています……
また比較対象として、Day1のみ・アゾコンは5名参加ではありますが、賞金制で一定のレベルがあると思われかつアゾコンが1・2位通過しており、GOQの1週間前に行われた、NRG Series Showdownでも同じ分析をして、比較をしていきます。
軍備放棄/かき消し/方程式の改変
早速驚きだったのが、
『負け越し組の方が、《軍備放棄》の採用率が高い』
『負け越し組の方が、《方程式の改変》の採用枚数がやや多い』
『勝ち越し組/上位25%の方が、《かき消し》の採用枚数が多い』ということです。
特に《方程式の改変》については、アゾコン使いの方々が「カンスペ」と呼んでいるのをたびたび見かけており、汎用性のある強化カードだと思っていたので意外でした。
ですが、【ラクドス・ミッドレンジ】相手には《鏡割りの寓話/Fable of the Mirror-Breaker》《砕骨の巨人/Bonecrusher Giant》あたりにしか上手い感じに当たらない面もあるのは確かです。
《軍備放棄》については、マナベースが弱くなることが欠点という話は聞いたことはあるのですが、カードパワー的には不足はないかなと個人的には思うので、アンマッチなシーンがあれば伺いたいですね。
NRGの結果でも、1・2位を取ったリストは《軍備放棄》不採用。
ちなみに1位は相棒《ヨーリオン》型、2位は相棒無しです。
NRGの結果と併せると、『軍備蜂起型は現環境にマッチしていない』『《方程式の改変》はデッキパワーに貢献していない』という可能性は考えられ、【ラクドス・ミッドレンジ】以外との相性はもちろんありますが、勝ちきれなかった理由の1つにはなるのかなと思いました。
2Tアンタップイン土地
また、《かき消し》《方程式の改変》の使いやすさに直結する2Tアンタップイン土地の枚数も併せて見てみます。
GOQでは2Tアンタップイン枚数に大きな差はなく、平均17枚程度と言ったところ。
《かき消し》《方程式の改変》の採用枚数による差もそこまでなさそうです。
NRGでは、人数の分母が少ない所に《ヨーリオン》型が混ざっているので平均値が上がっていますが、おおむね平均16枚ですね。
2位がかき消し4枚なのに2Tアンタップインが15枚なのは気になるところですが…。
1枚の差がどこまで大きいかは、実際にアゾコンを使っていないのでちょっとわからないため、有識者の皆さん的にどうなのか聞きたいです!
相棒採用の有無/サイド猫の枚数
次は《相棒》の有無です。
まず、相棒としては《ヨーリオン》より《カヒーラ》が主流。
そして《カヒーラ》型の強みでもある「猫」たちについてですが……《オレスコスの王、ブリマーズ/Brimaz, King of Oreskos》をしっかり取っているデッキの方が勝った傾向が見られました。
生データを見ると、《カヒーラ》不採用で《ブリマーズ》を取っているリストも見受けられます。
《ブリマーズ》は、3/4という優秀なスタッツを持ち、アタッカーとしてもブロッカーとしても優秀なクリーチャーです。
特に、【ラクドス・ミッドレンジ】の《税血の収穫者/Bloodtithe Harvester》《墓地の侵入者/Graveyard Trespasser》を受け止め、《踏み付け/Tread Upon》で除去されず、《砕骨の巨人/Bonecrusher Giant》と相打ちにも出来るため、明確に【ラクドス・ミッドレンジ】に刺さるカードなのかなと思います。
《威厳あるカラカル/Regal Caracal》も、上位25%と下位25%で平均採用枚数に差がついています。
5マナとやや重いですが、失ったライフアドバンテージを補い、全体除去後の戦いを優位に出来る1枚かなと思います。
これらを踏まえると、【ラクドス・ミッドレンジ】に「負けない」ためには、《ブリマーズ》《威厳あるカラカル》の重要性は高かった可能性があります。
一方で、NRGでは《カヒーラ》採用リストも、猫採用リストも0だったのも興味深い結果です。
代わりに採用されていたのは《悪斬の天使/Baneslayer Angel》を中心に、太陽の勇者、エルズペス/Elspeth, Sun’s Champion》や《シュタルンハイムの解放/Starnheim Unleashed》など。
NRG⇒GOQの間でここまでリストの変化があったのは、何か要因があったのか、あるいは地域メタによるものなのか……もしご存じの方がいましたら伺いたいです。
一時的封鎖の枚数
個人的に一番の気になりポイント、《一時的封鎖/Temporary Lockdown》の枚数です。
先述の通り【ボロス召集】へのキラーカードであり、そして特定のデッキにしか刺さらないことから、デッキの構築を歪めかねない1枚でもあります。
《一時的封鎖》に関する分析は、データを共有したぞんびさんから「採用枚数別の勝率を出すと面白いのでは?」とアドバイスを頂いたので、その視点からご紹介します。
1つ明確に出たのは『《一時的封鎖》を合計4枚取ったリストも1枚だけのリストも勝っていない』ということでした。
4枚採用リストの平均勝率は18.8%。3枚は40.0%、2枚は37.8%、1枚は16%。
明確に勝率に差が出ていると言えるでしょう。
やはり過剰な意識も、過剰なガード下げも上手く行かなかったという事なのでしょうか。
「意識」の比重として分かりやすいものと言えば、「メインに入れるかサイドに入れるか」。
ということで、メインの採用枚数順と、サイドの採用枚数順に並べてみました。
右がメイン採用枚数順、左がサイド採用枚数順、数字は線の上下での平均勝率です。
メイン採用3枚以上と2枚以下では、さほど平均勝率に差は出なかったものの、サイド採用0枚と1枚以上では、ややサイド採用0枚の方が勝率が高い……かな……?
正直、差が10%未満なのであやしいところです。
ラクドスの特徴を洗ってみる
それでは本題、「なぜラクドスはそこまでアゾコンに勝てたか?」です。
【アゾリウス・コントロール】側にも課題点・不足点があったのは分かりましたが、やはり相手側の変化についても押さえたいところ。
【ラクドス・ミッドレンジ】と【アゾリウス・コントロール】の相性に直結する部分といえば、「ハンデスの枚数」「ミシュラランドの枚数」。
また、【ラクドス・ミッドレンジ】の型の変化としては、「《勢団の銀行破り/Reckoner Bankbuster》の枚数」「サイドの全除去の枚数」「メインのクリーチャーの枚数」が気になります。
ということで、GOQは78名、NRGは30名のリストを洗いました。
そしてーー思いの外早く、明確な「違い」は見つかりました。
ハンデス枚数
そう、”メイン”の《強迫/Duress》の枚数です。
八十岡翔太プロが、プロツアーファイレクシアで使ったリストから流行した(と自分は認識している)、【ラクドス・ミッドレンジ】へのメインでの《強迫》の採用。
採用していないリストも多いなと、配信でデッキリストを見ながら思っていたのですが、いざ集計すると、「勝ち組」と「負け組」で「メインでの」採用枚数の差が明確にありました。
負け越し組でサイドの《真っ白/Go Blank》採用がやや多いくらいで、その他のサイドのハンデスについては属性での大きな差はありません。
継続ハンデスが出来る《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》についても同様で、大きな差はありません。
ということは! ハンデスの中でも、メイン《強迫》が強さに違いを生み出していると言っても良いでしょう。
また、NRGの結果と組み合わせると、さらに面白い傾向が見えます。
メイン《強迫》採用が勝ち越し組で多いのは同じなのですが、NRGでの勝ち越し組の採用平均枚数は0.44枚。一方のGOQでのDay2抜け組は0.71枚。
基本的に1枚採用と考えれば、これはそのまま採用者の割合として使えるので……
NRGでは勝ち越し組の44%がメイン《強迫》採用、GOQではDay2抜け組の71%がメイン《強迫》採用ということになります。
同じ基準ではないとはいえ、「勝ち組」の中でも1.5倍近い差があります。
全体平均を見ても、NRGは28%、GOQは46%と、メイン《強迫》リストは1.7倍になっています。
1週間で、【ラクドス・ミッドレンジ】側に意識とリストの変化があったことが伺えます。
メイン《強迫》について考えてみる
ではなぜ、急にメインに《強迫》が入ったのか? 《強迫》が強さに貢献したらしいのはなぜか?
《強迫》は当たる範囲が広く、いわゆる『丸い』対策カードと言えます。
そして、《強迫》が対応できる範囲には、【ラクドス・ミッドレンジ】が苦手とするビッグアクションのコンボのキーカード、【アゾリウス・コントロール】を中心としたコントロールの大体……
……そして、【ボロス召集】の展開速度の鍵を握る、《上機嫌の解体/Gleeful Demolition》があります。
【ボロス召集】対策で、【ラクドス・ミッドレンジ】が《強迫》を取ったのは定かではありません。
ですが、RCQという重要度の高い大型大会で、広いデッキに当たる《強迫》を取るのは自然なことなのかなと思います。
その結果、特に《強迫》を苦手とする、【アゾリウス・コントロール】【ボロス召集】が、勝率3割を切る大苦戦をしたのではないでしょうか?
また、【ラクドス・ミッドレンジ】のメイン《強迫》は、【アゾリウス・コントロール】における《一時的封鎖》と比較しても面白いです。
マッチング勝率の表から、【ボロス召集】は使用率上位のデッキにも勝ちきれない相手がある、極端に強いデッキではないことが分かりました。
そして、【アゾリウス・コントロール】は、断言はしきれないものの、勝ちきれなかった要因の1つに《一時的封鎖》の過度な採用……過度な意識があったのではということも見えました。
これらを合わせると、GOQのメタゲームには、『意識して【ボロス召集】に対策の枠を割いたデッキがそのせいで従来のデッキに負け、【ボロス召集】をある程度無視したデッキが勝った』という面があるのではないかと思うのです。
そして、【ラクドス・ミッドレンジ】のメイン《強迫》採用は、その反対側にある、『意識して枠を割かなくても良いが、対策になる』デッキプランだとも思うのです。
今回の、GOQでの【アゾリウス・コントロール】大敗のエピソードは、【アゾリウス・コントロール】の弱さではなく、翻って【ラクドス・ミッドレンジ】の構築における戦略の重要性を表すエピソードなのかもしれません。
ミシュラランド
「アゾリウス・コントロールの大敗」の理由は見つかりましたが、せっかくなので他の分析についても書きましょう。
ミシュラランドについては、GOQでは「勝ち組」「負け組」で大きな差は無し。
また、《変わり谷/Mutavault》の採用はほとんどありませんでした。
一方でNRGは《変わり谷》の採用が一定あり、そして「勝ち組」側が明確に採用枚数が多かったです。
これもデッキリストの方針の変化として面白いですね。
1T黒、2T黒赤のノイズになる《変わり谷》は、メイン《強迫》では採用しづらかったという事なのでしょうか?
有識者の方にうかがいたいですね。
銀行破り
GOQ・NRG共に、やや勝ち組の方がメインの採用枚数が多いかな…?くらい。
メイン2枚・サイド1枚が主流っぽいですね。
サイド全除去
「意識して対策をするかどうか」という話をしましたが、一応【ラクドス・ミッドレンジ】でも、全体除去の枚数は勝ち負けに関わっていそうでした。
全体的に「勝ち組」の方が採用枚数が多いですね。
そして勝っている方が《衰滅/Languish》の平均採用枚数が多く、負けている方が《煤の儀式/Ritual of Soot》の平均採用枚数が多いのは興味深いです。
《衰滅》は、【ボロス召集】への最高の回答カード。
もしかしたら、そこまで意識しない中でも、少ない対策カードの中で的確なものを選ぶことが重要なのかもしれません。
NRGとの比較も面白いです。
NRGでは《衰滅》の採用はなんと0!
サイドの全除去平均枚数自体も、全体平均で3.03枚と、GOQの3.73枚と比べると明確に少ないです。
やはり【ボロス召集】効果は大きかったんだなあ……
メインのクリーチャー
これも《苦難の影/Misery’s Shadow》周りで面白い結果が見られました。さっきから面白いしか言ってない気がする
明確に、「負け組」が《苦難の影/Misery’s Shadow》を採用していた傾向があったのです。
《苦難の影》とトレードオフで入る枠と言えば、自分は《死の飢えのタイタン、クロクサ/Kroxa, Titan of Death’s Hunger》を思い浮かべます。
ですが、《クロクサ》の枚数自体は「勝ち組」「負け組」で差はありません。
ただ、《クロクサ》を『ハンデス』として考え、デッキ内の総ハンデス枚数と絡めると差が出てきます。
Day2抜け組の方が、クロクサを含めたデッキ内の総ハンデス枚数が多いのです。
《クロクサ》も、『意識して枠を割かなくても良いが、対策になる』側面を持つカード。
勝ったプレイヤーは、メイン《強迫》と併せて採用を意識していたのかもしれません。
つまりはこういうことだ!
ということで長くなりましたが、GOQで「アゾリウス・コントロールが大敗した理由」「ラクドス・ミッドレンジがここまでアゾコン・召集に勝てた理由」まとめるとこういう事なのかなと思います。
GOQのアゾリウス・コントロールは、デッキの構造が強くなかったかもしれない
《軍備放棄》、《方程式の改変》、《ブリマーズ》と《威厳あるカラカル》、《一時的封鎖》……
集計から要因は様々浮かんできましたが、結論として、GOQに持ち込まれた『アゾリウス・コントロール』はデッキの構造が強くないものが多かったのかもしれません。
ですが、あくまで今回の一件は環境が動いた直後のGOQでの話であり、【アゾリウス・コントロール】の弱さを断定するものではないとは、強く思います。
今回の結果を受けて、【アゾリウス・コントロール】の再考・洗練が進んでくれれば良いなと思います。
GOQのラクドス・ミッドレンジはメイン《強迫》が多く、それでアゾコンと召集は大敗したかもしれない
【ラクドス・ミッドレンジ】に丸い対策としてメイン《強迫》が多く、それが結果として【アゾリウス・コントロール】【ボロス召集】に刺さったのが、2デッキの大敗の理由と考えても良いでしょう。
《クロクサ》を含めた総ハンデスの枚数、または【ボロス召集】への的確なサイドカードの選出も、「アゾコンに弱くならない」という点では有効だったかもしれません。
【ラクドス・ミッドレンジ】の環境での立ち位置の良さは、的確なデッキプランの構築が要だという良い例と言えると思います。
ですが今回の大勝を受けて、メイン《強迫》は強さが見込まれて定着するかもしれません。
まとめ
長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました!!!
今回の分析は、自分にとっても非常に勉強になりました。大変でしたがやって良かったと思います。
みなさんにとっても、何かの参考になっていましたら嬉しいです。
今回の分析に使用したデータについては、ちょっとスプレッドシートに癖があるので全体公開はしません。
ですが、Vlookupの簡単な知識があれば別の項目の集計にも使えなくはないデータですので、もしご興味がある方がいましたらデータをお渡しします。
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