2023.08.27:「stutter」について、知っておいてほしいことについて追記しました
2023.08.28:「記者ハンドブック」第14版「差別語、不快語」について追記しました
眞白井エイドです。
普段は、YoutubeでMtGパイオニアに関する配信や、Twitterでパイオニア週刊紙「週刊ふんわりパイオニア便り」を発行しています。
今回はかなり真面目な記事です。
普段から真面目に記事は書いていますが、今回の「真面目に」というのは「serious」という意味です。
また、これはWotC社およびそれに連なる関係者の方を攻撃するための記事ではありません。
そして、これはプレイヤーの皆さんに向けた記事です。
これらの前提を踏まえて、記事を読んでいただければ幸いです。
今回は、「エルドレインの森(以下WOE)」収録の新カード・《呪文どもり/Spell Stutter》を使う前に・使われる前に、知っておいてもらいたいことについて、触れたいと思います。
《呪文どもり/Spell Stutter》とは
《呪文どもり/Spell Stutter》は、WOEで追加の青のインスタント・カードです。
《火消し/Quench》にコントロールしているフェアリーの数分のボーナスがついたカードで、個人的には《高尚な否定/Lofty Denial》を彷彿とさせてかなり好きなデザインです。
WOEではフェアリーがカードデザイン面からプッシュされており、今後このカードを見かける機会は多いかもしれません。
また、日本時間9/1~9/2にはストリーマーイベント(旧アーリーアクセス)が開催され、そこでも使い勝手を試すストリーマーさんは多い事かと思います。
そんな《呪文どもり/Spell Stutter》には一つの懸念があります。
《呪文どもり/Spell Stutter》への懸念
Twitter(X)でも、ところどころで指摘している投稿を見られた方もいらっしゃるかもしれません。
それは、日本語訳で使われている「どもり」という語の持つ背景です。
「どもり」という単語は、非流暢な発話=吃音(きつおん)を差す言葉として、日本で長く使われて来ました。
カードの英語名で使われている「stutter」という単語も、言葉が非流暢であることを指しており、訳語として「どもり」が間違っているわけではありません。
ですが、日本では「吃音は不治の病である」「吃音は伝染する」という偏見が明治・大正…はたまた昭和に至るまで長らく存在し続けており、「どもり」という単語は「吃音症状を持つ人」という意だけではなく、ひいてはそれを差別する単語として使われていた側面があります。
また、そういった「どもる様子」は非常にからかいの対象となりやすく、吃音の方の多くは幼少期から辛い思いをすることが多いです。その数は、吃音の子どもの60%以上とも言われています。
大人の「どもる様子」をからかう例としては、いわゆる「テンプレオタク」の描写も上げられます。
からかわれる経験をした・目にした吃音の方々、あるいはそれに関係する方も、「どもる」という単語や、「どもること」をからかう様子に対して忌避感・嫌悪感を感じることとは、容易に推測できるでしょう。
「どもり」を使わなくても、上の辞書画像にもあるように「(口)ごもり」「(言葉)つっかえ・つかえ」「(言葉)づまり」のように言い換えられる単語なわけです。
そういった背景を受けて、現在の日本のマスメディア・出版業界では、特別な意図がないかぎり「どもり」という単語を使うことは避けられている、とされています。
これは明示されたガイドラインがあるわけではなく、業界の慣例・あるいは非公開のガイドラインに基づいたものによるという推測であることは留意しなければいけません。
▼2023.08.28追記
フォロワーさんより、「記者ハンドブック(第14版)」の「差別語・不快語」の項目に、例として「どもり」があると教えていただきました。ありがとうございます。
出版業界・ライティング業界のデファクトスタンダード=事実上の標準規格の本ということで、実際にライターの参考書として使われている実績を複数確認できました。
『少なくとも出版・ライティング業界内部には「どもり」を使用することは避けるべきというガイドラインがある』、すなわち『メディア関係者が使わない≒原則として公的な使用は認められない』といっても差し支えないのかなと思います。
▲追記ここまで
そんな経緯のある単語が、公式のカード訳として使われたのです。
つまりは、あるカードが特定の言語で(おそらく意図しない形で)一定の属性の人に嫌悪感を与える名前になってしまった、ということです。
しかし「そうなったこと」については私たちユーザーは反感の意を示すことこそできますが、それ以上のことは出来ないでしょう。
先述の通り、日本国内で法的に根拠のある・あるいは一定の拘束力のある明示されたガイドラインがあるわけではないですし、
(2023.08.28:追記を受けて修正)
冷徹に言ってしまえば「ネガティブな背景を持つ単語が、ある言語での訳に使われた」”だけ”であり、また「《呪文どもり/Spell Stutter》というカード自体が特定の属性の方を差別している」わけでもありません。
そのため冒頭に示した通り、この記事は、「呪文どもり」というカード訳に対して、WotC社およびそれに連なる関係者の方を攻撃すること・糾弾すること・抗議することを目的としていません。また、この記事を読んだ方に同様の行いは求めていません。
「誰かを傷つける懸念のある語がカード名に使われてしまったのなら、プレイヤーではどうすれば、これ以上誰かを傷つける懸念を減らせるのだろうか?」という提起が、この記事の一番の目的です。
使う前に・使われる前に、知っておいてもらいたいこと
誰かを傷つけるようなことを減らすために、読んでいただいた方にはいくつか知っておいていただきたいことがあります。
「なんだどこの馬の骨とも知らない第三者が偉そうに」
はい、どこの馬の骨とも知らない第三者です。
吃音の当事者でもなく、また吃音の親族・知人を持っているわけではありません。
ですが、自分は大学時代に障害について学んでおり、吃音につても専門的までは行かずとも学ぶ機会があったため、どうしてもこの話をしたかったのです。
なので、それでもよければちょっとだけ話をさせてください。
心がけるかそうでないかに関わらず、「知っている」と「知らない」の間には大きな溝があると、自分は思っています。
これを読んだあなたに「何かを変えてほしい」と強制する意図はありません。
ただ、知っていてください。
そして知った結果、何かを変えようと思ったとしても、変えないと思ったとしても、自分はどちらの判断を肯定もしないし責めもしません。断ずる権利はありません。
読者の方にも、できれば同じように考えていただけたらな、と思います。
どもり=吃音を持つ人は身近であること
吃音は、大人の場合でも100人に1人表れるとされています。
あなたが接したプレイヤー=プレインズウォーカーが、あるいはそれに連なる人が吃音の当事者であり、それに苦しい思いを感じている・感じていたことがある可能性は、遊び続ける限り必ずあります。
それを、知っていてください。
どもり=吃音をからかう・茶化すことは、一定の攻撃性があること
直接引用はしませんが、Twitter(X)では既に「テンプレオタクの吃音イメージ」の投稿が、《呪文どもり/Spell Stutter》のカード紹介を引用する形でされていました。
カード邦訳に連鎖するような形で「どもり=吃音」をからかう・茶化すような言動・行動は、意図せずとも上のような方々にむけた攻撃性があります。
身も蓋もない言い方をすれば「どもりって言葉を茶化すのほんまおもんないぞ」ということです。
それを、知っていてください。
多元宇宙の在り方は、誰かが誰かを攻撃することを望んでいないこと
WotCに関するコンテンツ、およびそれのコミュニティに参加する人には、「行動規範」があります。
個人的には全体通して多くの人に読んでいただきたいのですが……行動規範にはこのような節があります。
WotC公式=多元宇宙のあり方として、先ほどの例のように、誰かが誰かのバックグラウンドを攻撃することは望まれていません。
それを、知っていてください。
なんか小難しく言ってるけど要するにどうなんだよ
カード名に文句言ってもどうこうできないから、せめてカード名茶化すのはほんまおもんないからやめておこうな!!!
おわりに
MTGAの登場で多元宇宙のあり方は非常に広くなり、それに伴う配信や動画投稿の増加で、プレインズウォーカー同士の接点は加速度的に増えました。
自分もMTGAをきっかけにMtGを始め、配信を始めたプレインズウォーカーの1人です。
9/1~9/2に開催されるストリーマーイベント(旧アーリーアクセス)も、プレインズウォーカー同士の接点の多さを象徴するイベントでしょう。
【MULTIVERSE HAS NO BORDER】
次元の垣根が低くなり、つながりが増えたいまだからこそ、不意に心を傷つけるプレインズウォーカーが一人でも少ないといいな、というのが、多元宇宙の片隅で活動する自分の願いです。
むろん、今回の「どもり」と「吃音」の方の話に限らず。
もちろん、この話をした自分もまったくもって完璧な人間ではありません。
これまでも無意識に他者を傷つけるような言動をしていたり、後から傷つけたことを知って後悔したりと、失敗を挙げればいとまに尽きません。
自分も、今回この記事を書いてみて、改めて襟を正さないとなと思いました。
なぜなら、「知っている」と「知らない」の間には大きな溝があるのですから。
長文になりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
それでは、また!
参考文献