眞白井エイドです。
普段は、YoutubeでMtGパイオニアに関する配信や、Twitterでパイオニア週刊紙「週刊ふんわりパイオニア便り」を発行しています。
さて皆さんは、【アブザン探検コンボ/アマリアコンボ】をご存じでしょうか?
「イクサラン:失われし洞窟」で成立した、《野茂み歩き/Wildgrowth Walker》と《アマリア・べナヴィデス・アギーレ/Amalia Benavides Aguirre》による「無限探検」からの全除去、そしてワンショットパンチを主軸とした、クリーチャーコンボデッキです。
デッキの動きについては自分の「週刊ふんわりパイオニア便り」、そして上の公式記事に詳しいので割愛しますが……このデッキの難点の1つが、上の記事では「弱点」として紹介されている『引き分けのリスク』。
このコンボには面白い弱点が存在する。アマリアのクリーチャーをすべて破壊するという誘発は、探検の解決後にパワーがちょうどぴったり20でなければならない。
普通は問題なく18個めの+1/+1カウンターが置かれたタイミングで全クリーチャーが破壊されるのだが……もし20を飛ばして21以上の値になってしまったら?
その時には……アマリアの無限の探検を止める術が存在しない。無限ループが発生し、ゲームは引き分けとなってしまう。
「《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》のパンプアップ」あるいは「追加のライフゲイン」という意外と達成できてしまう条件で、「無限ループによる引き分け」が発生してしまうのです。
しかもこれ、今は亡き【地質鑑定士コンボ】、そして今なお存在する【クイントリウス・コンボ】に除去として採用されやすい《豪奢+誤認/Bedeck+Bedazzle》で発生させられるため、机上の空論ではなく意外とトーナメントシーンで起きてしまうという。
最近は【アブザン探検コンボ】の使用率が上がってきたこともあり、プレイヤー間での知名度も上がってきたこの引き分け現象ですが……。
『無限ループによる引き分け』ってどういうことか、説明できる人挙手!
……はい、自信のある方は少ないのではないでしょうか?
自分もぶっちゃけこれを書くまではない側でした。
そして実は最近、海外でこの現象についてのルール上の議論が起きていたのですが……英語なのもあり、内容についてご存じの方は少ないのではないでしょうか?
大型パイオニア&レガシー大会『THE LAST SUN 2023』前ということもありますので、今回は【アブザン探検コンボ】の『(トーナメントシーンにおける)無限ループによる引き分け』についての英語圏での議論の内容をご紹介したいと思います。
おことわり
この【アブザン探検コンボ】の無限ループ現象に限らず、MtGの大会における全ての最終的な判断は、各大会のヘッドジャッジに委ねられています。
また、この記事は「海外圏で行われていた議論の内容の紹介」が主であり、「正しいルール裁定の紹介・保証」が目的ではありません。
大会で分からないこと・不安なことがあったら即ジャッジコール!!!
何卒ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
また、この記事の執筆にあたっては認定ジャッジの方・ルールに詳しいベテランプレイヤーの方にもご相談させていただきました。この場を借りて御礼申し上げます!
そもそもアブザン探検コンボの無限ループって何?
【アブザン探検コンボ】で発生し得る無限ループ……この記事では『無限探検』と呼びますが、まずはそのメカニズムから紹介します。
『無限探検』は、「探検をするたびライフを得る」《野茂み歩き》と、「ライフを得るたび探検する」《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》が揃った状態で、「探検」またはライフの獲得が起きることで始動します。
Wildgrowth Walker / 野茂み歩き (1)(緑)
クリーチャー — エレメンタル(Elemental)
あなたがコントロールしているクリーチャーが1体探検を行うたび、野茂み歩きの上に+1/+1カウンターを1個置き、あなたは3点のライフを得る。
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Amalia Benavides Aguirre / アマリア・べナヴィデス・アギーレ (白)(黒)
伝説のクリーチャー — 吸血鬼(Vampire) スカウト(Scout)
護法 ― 3点のライフを支払う。
あなたがライフを得るたび、アマリア・べナヴィデス・アギーレは探検を行う。その後、これのパワーがちょうど20であるなら、これでないすべてのクリーチャーを破壊する。
(このクリーチャーが探検を行うとは、「あなたのライブラリーの一番上のカードを公開する。それが土地なら、そのカードをあなたの手札に加える。そうでないなら、このクリーチャーの上に+1/+1カウンター1個を置く。その後、そのカードを戻すかあなたの墓地に置く。」ということである。)
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そして、《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》のパワーが20になり、「これでないすべてのクリーチャーを破壊する」ことで《野茂み歩き》が破壊されるため、『無限探検』は止まります。
逆に言えば、《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》のパワーが20以上になってしまってこの全体破壊が起こらない、あるいは破壊不能付与などで《野茂み歩き》が生き残ってしまうと、『無限探検』は止まらなくなってしまうわけです。
そしてMtGの「イベント規定」では、『終了できない無限ループが発生した場合、そのゲームは引き分けになる』と決められています。
4.4 ループ
ループとは、繰り返す一連の行動を詳述し、その後でその一連の行動を特定の回数繰り返すという手順の省略である。ループ内の行動は繰り返している間同一でなければならず、条件による行動(「こうであれば、こうする」)を含んではならない。
いずれのプレイヤーもループの継続に関与していない場合、各プレイヤーはターン順に、そのループを終了する行動を取る前に繰り返す回数か、またはループを終了する行動を取らないことを選択する。もしすべてのプレイヤーがループを終了する行動を取らないことを選択した場合、そのゲームは引き分けとなる。それ以外の場合、そのループは選ばれた回数の中で最も少ない回数だけ繰り返された上で、その回数を選択したプレイヤーがループを終了させる行動を行なう。
(以下省略)
《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》または《野茂み歩き》が除去できない限り、プレイヤーはこの『無限探検』を止めることは出来ません。
そうなってしまうと、イベント規定の裁定に則り『無限探検による引き分け』が起きるわけです。
じゃあどうして議論が起きたの?
イベント規定に則って終わり……に見えるこの『無限探検による引き分け』ですが、実は一つ、はっきりしない点がありました。
それは、「無限ループとは、どこからどこまでが1つの手順か?」が定義されていないことです。
この定義については他の判断同様、ヘッドジャッジの判断にゆだねられているのですが、デッキが出来てから日が浅いこともあり、『無限探検』についてはジャッジの間で認識が統一されている、とは言い切れないものでした。
『無限探検』はその名の通り「無限に探検する」無限ループなわけなのですが、実はその中には、「探検の処理の一環で同じカードが無限にデッキトップに置かれ続ける」という、もう一つの無限ループ(以下、『無限デッキトップ』)があるのです。
そして無限ループは、総合ルールで「止められる行動があるのなら止める必要がある」という規定があります。
CR:727.3:
断片化したループというものがしばしば存在する。つまり、ループに関連している各プレイヤーがそれぞれに行動を取った結果、元と同じ局面が発生したという状況がありうる。その場合、アクティブ・プレイヤー(アクティブ・プレイヤーがループに関連していない場合、ループに関連している中でターン順で最初のプレイヤー)は違う選択をして、ループが続かないようにしなければならない。
つまり、『「無限探検で引き分けます」の前に、「無限デッキトップを終了させる」必要があるのではないか?』……というのが、今回英語圏で起きた議論の発端です。
(正確には、アトランタでのRCQでのこの点に関する裁定の投稿)
どういう結論になったの?
英語圏でのこの議論は、WotCのMtGルールマネージャーであるレベル3ジャッジ・Matt Karr氏が、「自分がヘッドジャッジをするイベントではこう裁定する」という投稿を、DreamHack Magicの公式Discordで投稿したことで一旦の収まりを見せました。
結論としては、「【アブザン探検コンボ】で『無限探検』を誘発させたプレイヤーは、自分でコンボに介入する意志がないならば、必ず土地でないカードをデッキトップから墓地に落として『無限デッキトップ』は解消しないといけない」というもの。
そしてライブラリー枚数が0になったことで初めて『無限探検』が確定し、対戦相手の介入の有無を尋ねてから「引き分け」の処理が発生するという判断でした。
なのでこの裁定では、「『無限探検』による引き分け」をしたいのならば、探検の処理で土地でないカードがめくれた場合、切削を選ばないといけないということになります。
分かりやすくまとめられたフローチャートがこちら。
ちなみに【アブザン探検コンボ】側がコンボ介入の意志がある場合のコンボ(=探検の処理)の繰り返しについては、「ループを終了する行動を取る前に繰り返す回数」を宣言してから、ループを終了する介入行動をする、というルールになっています。(イベント規定「ループ」、上図左下の長方形ボックス参照)
この裁定下では、【アブザン探検コンボ】のプレイヤーが『無限探検』への介入意思がない場合、「『無限探検』が確定したタイミングで対戦相手の介入を尋ねる」というアクションは取れなくなっており、「『無限デッキトップ』をそれに関係しているプレイヤー=【アブザン探検コンボ】側が解消してから、対戦相手の介入を尋ねる」という挙動しか出来なくなります。
(上のチャートでの右下の長方形ボックス)
ですので、これまであまり無かったであろう「『無限デッキトップ』を解消した後の対戦相手の介入タイミングでクリーチャーを除去され、引き分けもフィニッシュも出来なくなって自ターンにライブラリーアウトで敗北する」という現象が起きることがある点には留意しておいた方が良いでしょう。
おわりに
ということで、海外で話題になった【アブザン探検コンボ】の『無限ループによる引き分け』についての議論のご紹介でした。
たびたび起きる現象ということで話題になってはいましたが、なかなかルールが複雑かつルール文書の幅広い範囲に関連記述が渡っているため、正確に起きていることを知らなかった方も(自分を含めて)多かったのではないでしょうか?
皆さんのご参考になっていれば幸いです!
また、改めてになりますがMtGの大会における全ての最終的な判断は、各大会のヘッドジャッジに委ねられています。
大会で分からないこと・不安なことがあったら即ジャッジコール!!!
改めて、よろしくお願いいたします。
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